大使室より(「矢崎きずな奨学金」がつくる新しい「きずな」の話)

令和7年5月16日
NUS式典
USP式典
矢崎総業という会社は、サモアとの関わりの深い会社です。

この会社は、自動車の部品として使われるワイヤーハーネスなどを生産する会社なのですが、かつて1991年から2017年まで、ここアピアの近郊にあるバイテレ(Vaitele)というところに大きな生産工場を持っていたのです。加工した製品は当時オーストラリアにあった自動車生産工場に送られました。一時は 3600人以上の人が工場のライン要員として雇用されていたそう。朝と夜の2交代制のシフトで24時間生産ラインが動いていたといいます。当然、当時、サモアに存在する企業としてはトップの雇用主で、輸出されるワイヤーハーネスは、サモアの輸出額の8割以上を占めた、といいます。

ところが、2017年にはオーストラリアでの自動車生産がストップされてしまい、この工場で作られる製品の買い手がいなくなってしまいました。会社は、やむなく工場の閉鎖に踏み切ります。

普通なら、ここで話が終わるところですが、この会社のすごいところは、ここ、サモアで築いた「きずな」を維持するために、「矢崎きずなファンド」を新たに立ち上げ、勉強するサモア人の学生を支援する奨学金事業を始めたことです。

5月8日に南太平洋大学(USP)のサモアキャンパスとサモア国立大学の2カ所で奨学金の授与式が行われました。これには私も参加させていただき、僭越ながら祝辞を述べさせていただきました。

奨学金を受け取った「学生」の中には、すでに仕事をもっていてお子さんの居る人もおられます。涙ながらに、受賞に感謝の弁を述べる人も居ました。仮に今後「矢崎総業」の名がサモア人の記憶から消えるとしても、この奨学金の受賞者たちがこの奨学金を忘れることはないでしょう。この奨学金が新しくこの地に築きつつある新たな「きずな」を感じた一日でした。

「写真提供:NUS/USPサモアキャンパス」